予約システムはどうするのがベストなのだろう?

 成長ホルモンの話はあと2回を予定しているのですが、別のこともたまには挟まないとと思い今日は話を変えます。

神田小児科の予約システムの話はホームページ上でいろいろ書いていますのでこのブログをご覧になっている方ならご存知の方も多いと思います。予約システムの考え方は基本的には書いてあることが軸で大きく変えるつもりは今のところないのですが、唯一患者さんが能動的に予約が取れる「慢性初診予約システム」について今後の運用をアレンジするべきかで悩んでいます。ベストな予約システムなんてものは特に急性疾患と慢性疾患が混在する小児科診療所ではありえないと思っていますが、ベターなものにしていく必要はあります。

「3分診療」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?特に大学病院など大病院の待ち時間を揶揄するときによく使われる言葉です。予約したにも関わらず診察室に呼ばれるまで数時間待ち、実際の診察室に滞在したのは3分だけで診療が終わって、「あんなに待ったのに!」という気持ちがそういう単語になっています。

3分で診療が終わるとなると、1時間で20人の診察が可能になる。理論上はそうです。実際はもちろん違います。3分で終わる人は何らかの慢性疾患で安定していて薬の調節も必要ない方が大多数でしょう。「お願いします」「お変わりありませんか」「大丈夫です」「じゃあそのまま薬出しておきますね」といった流れで終われば確かに3分で終わるでしょう。しかし、これは診察室に患者さんが診察室に入り椅子に座って、医師と会話して終わって診察室を出るまでの時間です。その前には基本ほとんどの医師が、まず呼び込み前にカルテをチェックして「変わりなければそのまま薬出して終わりかな」などとその診察の方針を頭に入れて呼び込みます。そこまでの間に何分かは時間がかかります。経過が長いなどの患者さんは前日などに予習することもザラです。そして患者さんが診察室から出れば、今は大病院のほとんどが電子カルテでしょうから、それを入力するのに数分。そしてこれを事務に回したりする。この流れだとどれだけスムーズでも10分切るかどうかだと思います。

そこに経過が落ち着かず治療方針をその都度相談する患者さん、いろいろ相談事が多い患者さん、検査結果を説明する患者さん、別の検査を予約する患者さん・・・きりがありませんが、上に書いた流れで終わる患者さんは限られるでしょう。むしろ上に挙げた患者さんは近隣の診療所で診てもらうよう逆紹介してもらったほうがいいはずです。当院も伊勢日赤さんからの逆紹介は積極的に請け負っています。患者さんにとってもメリットが大きいはずです。3分診療で終わらない患者さんですと、予約作業や、処方内容変更、検査オーダーなどでさらに時間を要しますから、結局一人の患者さんに30分かかることも珍しくないでしょう。長い話をした場合もカルテに記録を残さないといけませんが、待っている患者さんの診療も進めねばならないので記録記載は全診療を終えてから行うことも少なくありません。

となると1時間で20人診療するのは大病院では基本的に不可能です。いや、10人でも1人あたり6分ですから不可能レベルです。しかしながら予約システムは恐らくどこも1時間10人レベルで入れられるようになっていますし、仮に定員オーバーしても患者さんの希望に応じて枠オーバーで予約を取れるシステムが多いことを経験しています。そういう事情で待ち時間は非常に長くなる。かといって大学病院など大病院は基本的にその地域の最後の砦になる基幹病院なので、そこでしか診られない患者さんを受け入れないということはしてはいけないので、予約枠はそれなりの数が確保されているという事情になります。

では、診療所はどうでしょうか?とはいっても他科の事情は詳しくありませんので小児科になります。今の当院で行っている発熱患者さんの事前屋外検査の時間は省きます(患者さんにとってはこれも待ち時間なので省いてはいけないのですが、話をわかりやすくするためです)。一番多い発熱などの感染症、そして特殊な感染症ではなく要は風邪と診断する患者さんを例にします。小児科の場合、年齢や性格でお子さんの診療にかかる時間も結構異なってきます。原則として急性疾患の場合に聴診や喉の診察などを省くわけにはいきません。加えて多くの場合患者さん本人は症状を訴えられないので、ご家族が症状を代弁します。それをもとに診察するわけですが、これだけで3分という時間は余裕でオーバーします。風邪薬の処方だけでいい場合はそこからは早いので、10分は切ることはそこまで難しくはありません。しかし1時間10人レベルになる6分は、事務や看護師との連携がよほど上手く回らないと難しいレベルです。実際のところ当院は回せるときはそのレベルでやっていますので、これは相当にスタッフが頑張ってくれているのだとありがたく感じます。そんなわけで院長ひとりの診療でやるならば1日に3桁の患者さんが仮に受診されたとしても全員診られる自信はありません。それができるのであれば、それは丁寧な診察が疎かになっている可能性が高いです。ただしインフルエンザワクチンの時期は予防接種の方の時間は早いのでその数を超すことは珍しくありません。

そこに慢性初診予約の方の診察が入ってくるとなると短くても15分、多くの場合は20〜30分は見積もっていかねばなりません。初診ほど患者さんの情報量が少ない時期はありませんので、その情報収集にかなりの時間を費やす必要があります。大病院でも初診のみの外来があるのは時間がかかるからです。さすがに1時間もかけるわけにはいきませんので、長くても30分で診察室でのお話しは終わるように心掛けています。そうしないと他の方の診療が回らなくなってしまいます。短くしつつも要点を抑える診察も医師の技量のひとつと考えますので、そこは自分が医師人生を終えるまでずっと試行錯誤していくことになるでしょう。もちろんこのレベルの診療の長さになるのは慢性初診の患者さんのみではありません。定期的に通われている方でも節目節目で治療方針の相談をするとそれくらいはかかります。そしてその節目は結構多いのが小児科の患者さんの特徴です。成長に合わせて診療内容や投薬を変えていく必要性が成人の方より多くなるからです。

電子カルテの存在も1人にかける診療の時間を長くしている要因のひとつです。入力は案外時間がかかります。よく「あの先生はずっとパソコンばかりみている」と批判される電子カルテですが、これは院長もそうなってしまうようなことがあり今後も注意せねばなりませんが、診療を円滑に進めるとなるとパソコンを操作しつつ、問診を行うといった二刀流は不可欠です。そこで見るのはパソコンの画面ではなく患者さんであるということを常々心掛けてやっていかねばなりません。

そこでまた慢性初診予約システムの話に戻りますが、この時間を要する枠の予約はありがたいことに年々増えてきています。そういうお困りの方に時間をかけて寄り添うことは大事なことですので、この枠の存在は引き続き大事にしなくてはいけません。一方でこの枠のために他の受診患者さん(多くは急性疾患)の待ち時間をむやみに長くすることもいいこととはいえません。発熱や嘔吐、咳といった症状でただでさえしんどいお子さんに長時間待ってもらうことはより体力を消耗させますので最小限に食い留めねばなりません。となると、この2つの質の異なる診療を同じエリア(時間帯)で並立させていくことを見直すべきか、という話になってきます。そうなると他の慢性疾患の患者さんも含めた、「慢性外来」という枠を設けるほうが理にかなってきます。実際大病院ではそういう枠は普通にありますし、診療所でも設けている医院はみかけます。しかしながら、こういう枠を設けてしまうと慢性患者さんにとって通院の融通が効かせにくいという問題も生じます。大病院であればそれも許容してもらえるのですが、神田小児科のような小さい診療所は通院のしやすさも大事になってきますのでなかなか手を付けにくいところです。

慢性疾患の枠を別に設けている診療所はそこは割り切って患者さんにご理解をもらっているのでしょう。どうしてもそこの枠に通えない方は急性疾患の方に混じってある程度の待ち時間は許容してもらって通常診療枠で診るというのが別のアイデアです。ただし、これを実行すると結果的に慢性疾患の枠以外を選ぶ方が多いような気がしますのでまだその時期ではないと今は考えています。

ということで、この文章を書きながら頭を整理しましたがやはりベストな回答には行き当たりませんでした。もう少しこれでやってみて、どうしても多々に待ち時間でご迷惑をおかけする事態が変わってこない場合はまた思考回路を回転させて、根本的な予約制度に手をつける可能性があります。個人的には他の診療所での導入が多い急性疾患の予約制度はあまり手を付けたくありません。ホームページに書いてある内容もそうですし、取れた予約時間に縛られて「もう少し早く来てくれればよかったのに」という状況を作りたくないという考えからです。とはいっても今は主にLINEを使って簡単に予約を確保できる方が患者さんのニーズに合っているのでしょうか。時代の流れを読むことも含めて引き続き皆さんにとってよいやり方を考えていきます。

このブログの人気の投稿

研修医を終えてすぐ開業するのはアリか?

免疫力低下というもっともらしいキーワード

危惧する今後の小児科医療の存亡