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6月, 2023の投稿を表示しています

「目覚めのカフェイン」、ちょっと気をつけましょう

 「朝起きられない」という相談は時々あります。多くは小学校中学年より上のお子さんになります。確定診断に至るのはなかなか簡単ではないのですが「起立性調節障害」という診断になることが比較的多いです。自律神経の問題で「頭に血がのぼりにくい」ことで、朝起きたときに脳に十分な血が巡らず起きられない、といった症状などが出るとされています。効果てきめんとはいいにくいのですが、血圧を上げる薬と使ったりすることがあります。生活面の指導がまず第一に行うことが普通です。 自律神経の問題というと「自律神経失調症」という病名も小児科ではあまりありませんがよく聞く病名かもしれません。自律神経というのはなんぞや?ということは意外と知られていません。大きく2つの神経に分かれ、ひとつは「交感神経」、活動量を上げる方向に働く神経です。もう一つは「副交感神経」、逆で活動量を下げます。夜寝ようかというときには副交感神経が作動してくれないといけないわけですが、自律神経の乱れがある方は逆に交感神経が働いて夜になると目が冴えて活発になるというあまり嬉しくない状況になる、というわけです。 実際のところは自律神経そのものに作用する薬はありません。先にも述べたように起立性調節障害では昇圧剤を使います。自律神経失調症においても症状に応じて睡眠薬や抗不安薬などを使うことが多いようです。根本的な治療にはならない、症状を少しでも和らげられることくらいになるので、なかなか症状が全快に至る方が少ないので患者さんはもちろんのこと、診療する医師にとってもなかなか難しいものになります。 さて、自分も朝がものすごく苦手です。特に冬などは寒さも嫌いなので布団から出るのに一苦労です。ただ、これが自律神経の問題から来ているのかといわれると調べたことがないのでわかりません。起立性調節障害では血圧の問題があるので横になっているときと、立っているときの血圧の変化を調べたりして診断の補助に使うこともありますが、精度が良いかといわれるとなんともいえません。ただ、昇圧剤を使うとなると血圧自体は見ておきたいので検査は行うことが多いです。自分に関しては昇圧剤を使うことは考えたことはないので検査も考えたことがないという理屈になります。 さて、そうなるとどうするか。朝起きられない人は世の中にはゴマンといるはずです。多くの方は「気合い」で仕事なり学校に行っているこ

成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断・診療について思うこと(最終回)

成長ホルモンの話に久しぶりに戻ります。遅くなった理由として、当院で主に使っている成長ホルモン製剤が急に供給不足になってしまい、その件の収拾にこの1ヶ月以上追われていたためです。一部の患者さんには別の成長ホルモン製剤への変更を余儀なくされ、受け入れてくださったことに本当に感謝するとともに、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。本日ようやくこの件に関して、当院における影響は収拾がつく見通しがついたので安堵しています。 さて、この項も5回になりました。今回は医療費にも絡む話であり、序盤に書いた低身長の医療費に関わる2つの制度、小児慢性特定疾患医療費助成制度(以下小慢と略記)と健康保険の違いの問題について書きます。 「健康保険による成長ホルモン分泌不全性低身長症(以下GHDと略記)の診断基準は緩い」旨を前に書きました。いくつかありますが、まずは身長基準。小慢は身長が-2.5SD以下、健康保険が-2.0SDと違いがあります。次に検査基準。小慢は一度でも基準値を超える負荷試験結果があれば却下になる。偽りないデータを提出する必要がある。健康保険は原則何度でも負荷試験ができて、そのうち2回基準を満たせば大丈夫。データ提出の必要はない。そして治療終了基準が小慢は男子156.4cmまで、女子が145.4cmまで(成人の-2.5SDの身長)に対して、健康保険は男子が骨年齢17歳、女子が15歳までと異なっています。骨年齢を基準にするともっと長期間治療はできるはずです。 とはいえ、ほとんどの方が小慢を通して治療を行っているはずです。しかしながら、ここ10〜20年で事情が変わってきました。自治体による差があるものの大半の自治体で少なくとも中学生いっぱいまでの医療費助成が入るようになりました。それまでは健康保険のみ適応といっても2〜3割の医療費負担、そしてその多くが薬局に支払う成長ホルモン注射代になりますが、決して安い額にならないため(高額医療費制度を使うことも珍しくありません)利用する方は限られていました。今は多くの方が健康保険と自治体補助で結果的に費用負担が無料に限りなく近づくために健康保険のみで通して治療を行っている方も少なくないのかもしれません。当院でも極めて少ないですがそういう方はみえます。医療的に正しいのかはもちろんこれまで書いてきた文章でわかっていただけると思いますが、制度上認

危惧する今後の小児科医療の存亡

 保険はたくさん種類があります。基本的な考え方は「何か問題があり多額の費用が発生する場合に、その保険から費用が賄われる」ということになります。 基本的には保険料というものは、その保険にとってリスクの高い方は高くなります。例えば生命保険でいえば、年齢が高い人や、持病のある方の方が死亡率が上がるため保険料が高く設定されています。また女性より男性の方が高いことがほとんどです。持病の種類によっては保険の加入すら認められないこともあります。その他には自動車保険も年齢の設定があり、これは若い人が高くなります。また車種によってもしっかりとした事故の統計データからハイリスクな車種には高い保険料がかかってきます。保険会社も慈善事業で行っているものではないので、当然その考えはシビアになります。 さて、私たちのような医療機関が扱う「健康保険」に対する保険料は上記の考えとは全く異なる考えで徴収されています。健康保険料は原則的に収入に応じて決定されます。収入が少ない人は安い、多い人は高いと単純といえば単純です。そこにはその患者さんの持っている病気のリスクなどは加味されません。また、一部の方は2割負担になりますが、原則的に持病をお持ちになる可能性が高い後期高齢者の自己負担率は1割と低くなっています。一方で小児の自己負担率は2〜3割になりますが、多くの場合自治体のよる償還払いがあるため実質負担率はゼロとなっています。しかし、この場合でも健康保険では2〜3割の負担を小児、つまりご家族に求めているわけです。その負担が今はご家族ではなく、自治体が肩代わりしてくれているわけです。とはいってもその原資はご家族が負担した税金によるものです。 「国民皆保険」という考え方によって日本に住む方は外国人も含めすべての方が国民保険か社会保険に加入することになっています。この制度によって病気の方がお金がなくて病院にかかることができない、ということを極力防ぐための制度となっています。全額医療費無料の国もありますが、多くの場合は保険料や税金に大きな負担がきているため決して夢のような制度とはいえません。今の日本の制度は問題点もたくさんありますがよくできている制度であることは間違いありません。 とはいえ、保険料の負担が一番多いのは病気になりにくい年齢層の方になります。逆に病気になりやすい高齢者の負担は一気に下がります。これを将

免疫力低下というもっともらしいキーワード

少し前に読んだ記事ですが、「小児科外来が混雑している、免疫力低下のためか」みたいな見出しでした。確かに当院も混雑しており待ち時間も長くなりご迷惑をおかけしています。コロナとインフルエンザも変わらず少しずつみえますし、RSウイルス、アデノウイルス、溶連菌などもみられます。それ以上に鼻をグリグリして診断する検査には何も反応しない、それは一般的に「風邪だね」と呼ぶ感染症が圧倒的に多いです。 毎年この時期くらいまでは小児科医であれば誰もが受ける相談として、「保育園に行きだしてからずっと風邪を引き続けている。うちの子供はどこかおかしいのでしょうか?」というものがあります。今年はいつにも増してそのご相談が多いです。そういう状況が当院のみならず全国的に起こっているため、こんな記事が出てくるのでしょう。 基本的にはほとんどのお子さんが免疫力の低下という状況は起こしていません。このような状況になっているのは、非常にたくさんの種類の風邪症状を引き起こす細菌、ウイルスといった病原体への免疫が獲得できていないからです。風邪を起こす「バイキン」はそれこそ検査でわかるものはごく一部であり、わからないものがゴマンと存在します。多くは「軽い風邪」と呼ばれるものです。免疫を獲得するというのは、一言で言えばその病原体に感染して抗体を作るということです。そうすることによって、またその病原体が体内に入ってきても抗体が退治してくれて体調を崩さず済むのです。感染することがその病原体への免疫を獲得する唯一の手段ですが、人から移されたりする感染のみならず、予防接種を打つことも同じ意味になります。ワクチンにはいろいろ種類があるので仕組みが異なりますが、症状が出ない程度に感染させて抗体を作る、というのが予防接種のおおまかな仕組みです。 小さいお子さんは生まれた直後は母親とつながっていたおへそを通じて母親の持っている抗体をもらっていますし、最初に出る母乳(初乳)にも抗体が豊富に含まれています。その影響で生後半年くらいまでは体力が一番弱い時期にも関わらず感染症にかかりにくい状況を作ってくれています。生物が生き延びるために作られた非常によくできているシステムです。 しかしながらその抗体が切れてくる時期に、特に保育園など集団の場に出るお子さんは多くの病原体に触れ合う状況になるために繰り返し繰り返し感染するような状況になるわけ

研修医を終えてすぐ開業するのはアリか?

 今日は最近の医療に関連するニュースに絡めて話を進めていきたいと思います。 今日みかけたのが、「大手法律事務所の代表者の弁護士さんが医師になり、研修医を経てすぐに美容クリニックを開業した」というニュースです。弁護士として大きな成果を出した方が何故畑違いの分野を志したのか?読んでみると、弁護士事務所を拡大成長させたやり方で美容クリニックを今後全国展開していくような考えだそうです。しかしながら、医療機関の代表者は医師の資格がなくてはいけない決まりになっているために医学部に入り直し医師になったそうです。そして、現在は医師国家試験に合格したら、その後2年間はある程度の規模の病院で研修医として修練を積まねばなりません。この間は主に内科や外科、救急などを中心としていろいろな科で検査を積むことになります。この2年の成果を認められないと「保険医」という保険診療をするうえで必要な資格を得られません。 そしてその2年を終えてすぐ美容クリニックを開業した。理由は「寿命を伸ばすという医療に幸せを感じられなかった」という理由です。これに関しては賛否両論は確実に出ますが、個人的には医師免許を所持するものであれば、その選択肢のなかで自分の持論をもとに主となる科を何にするかはまったく自由と考えます。美容は確かに寿命を伸ばすことにはほとんど関係しないでしょうが、その治療を施すことで幸せを得られる方がいるのであれば意味は十分あることですし、そういったクリニックが年々増えているのも需要があるからでしょう。「延命治療」の問題は常に医療の現場では問題になりますが、安楽死の是非も含めて明確な結論を出すことは未だ困難であるといわざるをえません。自分は小児科ですので、生死に関わる場面に少なからず直面してきましたし、そのなかで延命の問題で多くの時間を割く必要が出たことも当然あります。そのご家族との間で出した結論が答えになるのですが、もちろんそれはさまざまな結論になりますし、その中身によっては疑問符がつくものもなかったわけではありません。 そういった医療の場から距離を置く、という決断に関しては問題ないのですが、3年目の医師が美容科を標榜して果たして専門性を生かした医療を提供できるのかという疑問はあります。研修医の2年間のプログラムには美容科はもちろん入っていません。それに関連する皮膚科や形成外科のプログラムも入ってき