成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断・診療について思うこと(4)

成長ホルモンの話ですが、まずは余談から。練習で自分も注射(中身は水)したことがありますが、相当に細く作られた針だけあって痛みはすごく軽いです。予防接種なんかとは比べ物になりません。採血は予防接種より太くなります。負荷試験はさらに太い針です・・。ボタンを押して薬が注入されていくわけですが、そのときにかかる圧力は相当なもののはずです。一瞬で投与を終えるわけですから。細いかつ強いという相反なる目標を同時に達している技術は見事だと感じています。成長ホルモンのみならずインスリンなどさまざまな分野で活用されています。一方で、近々承認予定の肥満治療の注射薬の糖尿病版(中身は同じ)の練習用のものも試したことがありますが、とんでもなく痛かった。針が一体化されている薬なのですが、これを続けないといけない糖尿病患者さんはキツいだろうし、肥満版も同じ針ならば続かないのではないかと危惧しています。

さて、いろいろとお話ししてきましたが、今回は成長ホルモン分泌不全性低身長症(以下GHDと略記)の患者さんが思春期にさしかかってきたときのお話しをします。少し前にホームページやブログで触れた低身長思春期発来とかなり中身がかぶります。

思春期が来たと判断するのは、まずは何よりも体つきの変化の診察が優先されます。血液検査でももちろん調べますが、思春期の入りたてでは今の検査精度では十分に判定しづらいところもあります。正確に調べるためにはGnRH負荷試験というものを行うこともありますが、めったに行いません。基本的には男子では精巣容積が4mLの大きさになったとき(平均11歳6ヶ月)、女子では乳房が膨らみだしたとき(平均9歳7ヶ月)です。思春期に入ると性ホルモンが作られるようになり、骨の成長が止まるまで背を伸ばす効果を出してくれます。成長ホルモンの効果と合わせると年間10cm程度の伸びが期待されるのが思春期の伸びです。その後は緩やかな伸びとなり最終的には骨が完全に完成して伸びなくなります。

この時点になると成長ホルモンの使用有無に関係なく最終的な身長がかなり正確に判定することができるようになります。一般的に男子は思春期の3年程度の期間に25〜30cm、女子は20〜25cm程度伸びるとされています。これを「身長スパート」と呼びます。GHDのようなもともと低身長の方はそれよりも少ない数字になることが多い印象です。難しいところは、女子の場合は膨らみだしたときはすでにスパートに入っているため、残りの伸びの余地が男子に比べると少し誤差が出ることです。

このスパートは言い換えれば、「残った背の伸びしろ」とも言えます。上記のスパートの余地を考えると、男子で135cm以下で思春期が来た場合、女子では130cm以下の場合だと、それぞれ160cm、150cmの最終身長到達が難しくなるために低身長思春期発来の項で示した別の治療を提案しているわけです。GHDの患者さんにおいても効果がよく出ている人ならばまだいいのですが、それなりの伸びの方で低身長思春期発来の状況になった場合にはせっかく毎日頑張って治療してきたのに目標に届かず治療終了になってしまう状況になりかねません。

この場合はやはり成長ホルモンを継続しつつ、低身長思春期発来の治療に準じて思春期のコントロールを加えて目標を目指すことになります。よって10歳前後になれば思春期を意識した診察、検査体制にどんどん移行していかねばなりません。最終身長を考えれば早熟よりも奥手の方が有利ですが、あまりにも奥手だと中学生の時期に思春期に入った他の子との差が開くことで心理的な負担になりますが、そのためだけに思春期を早めるのは得策ではないので基本的には我慢してもらっています。

見受けられるのが、この思春期の成長因子の影響をあまり考えずにこの時期も漠然と成長ホルモン治療を続けているケースです。もちろん当院で提案している男子のプリモボラン®の内服治療は自費治療になるので万人向けではありません。よってそうならざるを得ないケースもあるのは仕方ないことですが、思った以上に思春期が早く来てしまったので期待通りの身長に到達できない可能性をこの時点で患者さんとご家族に説明することがより重要になってきます。成長ホルモン治療はできても、思春期を抑えたりする治療に不慣れであればそれを請け負うことができる医師に少なくとも相談はするべきと考えます。

総合病院で治療を受けている方の多くは途中で担当医師が転勤などによって交代することを経験するかと思われます。実際自分も勤務医時代は転勤を繰り返したので、成長の終わりまで見届けられるケースはそれほど多くありませんでした。かといって当院のような診療所での継続治療が受けられる地域ばかりではありません。思春期の時期になったときには、思春期の評価を患者さん側から質問することも一つの手になってきます。

経験上思春期の体つきの変化は、その後声変わりであったり、初潮に至るわけですが、これらの流れは基本的にはどの方でも経験することであるため、その変化になかなか気付かないままいつの間にか思春期の成長が終わっている、終わりにさしかかっている状況になっているケースが少なくありません。背が伸びなくなったという訴えの中学生の診察は年間何人かはありますが、だいたいがすでに思春期の伸びを終えてもう身長に対しては何もすることはないよ、と説明して終わっています。もちろんこういったケースも残念なことですが、診療を受けているのにそういう状況になるのはもっと不幸なことといえます。思春期に関しては我々小児科医も内分泌を專門としている医師以外ももっと敏感にならないといけないですし、少なくとも成長に関する何らかの治療や診療を受けている患者さんのご家族も思春期のことは意識していただくことが大事であるといえます。

ここまで思春期との関連性を強調するわけですので、いかに重要なことかとおわかりいただけるかと思います。問診でご家族の体格や、患者さんのお母さんには初潮が来た時期を確認させてもらっています。これが全てではないですが、ある程度早熟、奥手の家系かもそこから判断しています。お父さんの思春期の状況は確認が非常に困難ですので、一部のみ確認しています。それ以外にも遺伝的要素も重要な事項になりますので、あれこれ確認されていただくことには何らかの意味を持って聞いていると思ってください。毎度長文にお付き合い確認ありがとうございます。次回が今回のテーマの最終回になります。

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