治療ガイドラインをどう診療に活かしているか?中耳炎ガイドラインを参考に

 特別際立って何かが流行っているわけではありませんが、体調を崩す方が変わらず多いです。そのなかにコロナとインフルエンザA型が微妙に入ってくるので、5類になってからも検査対応は変わらずとなっています。インフルエンザはともかく、コロナに関してはいまでも未知の部分が多いので院内での検査に切り替えるのは当院の構造ではまだまだ難しいのではないかと考えています。そのなかで昨日からスギ舌下免疫療法の本年度の導入を始めることができました。薬の供給不足でどうなることかと思いましたが、関係者の尽力でご迷惑をおかけする部分がかなり縮小できたのが幸いです。

発熱や鼻水といった症状が目立つ乳幼児の患者さんの診察の場合はなるべく中耳炎がないかの観察もするようにしています。先にも述べたように調子を崩す方が多いので中耳炎が合併していることも少なくありません。そうなると原則的には抗生物質を処方することになります。

抗生物質も非常にたくさんの種類があります。よく「強い抗生物質」などと表現されたりすることがあります。細かいことをいえば抗生物質に「強い」「弱い」という言い方はあまり適した言い方とはいえないのですが、患者さんに説明するときにはわかりやすさも大事ですので、なるべく「強い」という言葉は避けつつも「こちらの方がより効きそうだよ」くらいの言い方を使っています。一般的に「強い」と言われる抗生剤は、退治できる菌の種類が多く、かつ耐性菌というものにも対応してくれるものを表すことが多いと思われます。それであれば「強い」抗生剤でいいじゃないか、という話になりますがそこが単純な話ではありません。そういった抗生剤を使い続けると今度はその「強い」抗生剤への耐性菌ができやすくなります。そうなるとなかなか内服治療でもお手上げになる可能性が高くなりますので控えましょうというのが一般的な抗生物質についての考え方であり、中耳炎治療でも最近はその方向が進んでいます。

そんななかで小児中耳炎には治療ガイドラインというものが存在します。厳密には違いますが、まあマニュアルみたいなものと考えてもらって結構です。日本耳鼻科学会が出しているガイドラインは2018年のものが最新版になっています。では、これをまるっきり真似しているかというとそうでもありません。

私ども小児科医が対処する中耳炎は軽症の分類になることがほとんどです。ガイドラインでは軽症の場合の初期対応は「抗生剤非投与 3日間経過観察」となっています。抗生剤を使わず様子を見よう、自然に治るかみよう、というわけです。理論的にはこれで正しいのですが、では実際の診療の場で「中耳炎ですが軽症なので抗生剤を使わず3日様子みましょう。3日後にまた見せてください。よくなってなかったら抗生剤を投与しましょう。」という説明を患者さんのご家族にした場合、皆さんにご理解を得られるでしょうか?ご家族は早く体調を良くしてほしいという気持ちで来ているはずです。そこで3日間様子をみて改善せずようやく抗生剤を開始して、また後日確認、と最低でも3回の通院となります。特に結果的に抗生剤投与となった場合には「だったらなぜ早く出してくれなかったのか」という感情になる方もいるはずです。

よって神田小児科の場合は3日間の経過観察は行っていません。基本的に抗生剤を出します。そこで選ぶ抗生剤は基本的には「弱い」と呼ばれるもの(実際に弱いわけではありません)をガイドラインに従って出しています。その後も経過に応じて抗生剤を変更するなどしています。

軽症の中耳炎のガイドラインではその「強い」と言われる抗生剤は入っていません。ですがときには出します。理由はさまざまです。繰り返し中耳炎を起こしている患者さん、薬の内服の問題を抱えている患者さん、さらには1日2回の用法を望まれる患者さんといった様々な事情を加味しつつも、極力「強い」と言われる抗生剤で耐性菌を生み出しにくいように考慮していくわけです。患者さんやご家族の持っているそれぞれの事情で出し方が変わってくるのは当たり前のことですし、それとガイドラインを上手に共存した治療をしていくことが大事と考えます。なので、厳密にはマニュアルではないということになります。

余談になりますが、今現在の日本における小児に処方できる抗生剤で「一番強い」と思われるものを自分は一度も処方したことがありません。別に処方してはいけないものではありませんが、その薬に頼らずとも解決できることがほとんどですし、そうでない場合は重症度が高いので入院治療の方を積極的に検討することを優先しているためです。抗生剤を処方する場面は中耳炎に限らずとも少なくありませんが、少なくとも風邪にむやみに出さないことにしているのはホームページの診療案内でも詳しく説明しています。近年は抗生剤の過剰投与を控える流れがだいぶ浸透してきたように感じます。恐らくこのようなガイドラインの考えなどがいい方向に作用しているのだと思います。

さまざまな分野で治療ガイドラインや診断ガイドラインといったものが作られています。ある程度の診療の軸は今後もそういったものを参考に進めていくことになりますが、ガイドラインありきで進められるものではないことは中耳炎の考え方でもおわかりいただけるかと思います。極端にガイドラインの考え方から離れすぎた治療はよほどの理由がない限り咎められるべきだと考えますが、あとは個々の医師の経験などに基づく診療になっていくのが自然な形だと思います。

成長ホルモンの話の最終回が残っていますが、もう少し公開できるまではお時間をいただきます。お待ち下さい。


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