成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断・診療について思うこと(1)

神田小児科のホームページをリニューアル公開してから、どの地域から閲覧したかを確認できるようになりました。三重県がほとんどと思われると思いますが2番です。1番は「地域不明」です。よく誹謗中傷などに対する情報開示請求が行われる時代になりましたが、恐らくこの解析は簡易的なものなのでしょうか、詳しいことまではわからないようです。注目すべきは東京、大阪、神奈川など当地とは大きく離れた場所からの閲覧もそれなりに見られます。里帰り分娩で戻って見える方のしばらくの受診先検索などが予想されますが、恐らく低身長など当院がホームページで強調しているキーワードで検索している方もみえるのかもしれません。

新しいブログになり院長の專門の内分泌のことにあまり触れる機会がありませんでしたが、そろそろいろいろ書いていこうかと思います。これは上記に述べたような当院の受診される可能性がまずないと思われる遠方の方にも目を通してもらうことを意識して書いていきます。今回は一番相談件数の多い低身長のこと、そのなかでも成長ホルモン治療につながる「成長ホルモン分泌不全性低身長症(以下GHDと略記)」について院長が考える費用面も含めた問題点や最近のトピックスなども含めて記載します。かなりのボリュームになるので何回かに分けて記載していきます。お子さんが低身長と関係ない場合はあまり関心のないお話しになりますがご容赦ください。

まず非常に強調したいことが「低身長の定義」です。対象となる患者さんの身長が「-2SD以下」ということが絶対的な条件です。患者さんのSD値がどこに当たるかは神田小児科ホームページの診療案内にある低身長の項からノボノルディスクファーマ社の簡易測定が可能なリンクを載せていますのでそれをご参照ください。参考までに成人の-2SDに当たる身長は男子で159.2cm、女子で147.5cmになります。この数字は当院の低身長に関わる診療のなかで大事な数字です。この数字のところまでは最終的に到達することを目標にしており、それ以上までは自費診療を除き基本的には積極的には介入しない方針です。実際にはきりのいい数字として男子160cm、女子150cmと説明しているのはそのためです。

この-2SDというのは同じ年のみならず同じ月齢(◯歳△ヶ月)のお子さんが100人いたとして、そのうち96〜97番目くらいの背の低さになります。余談ですが、院長はかつて恩師に患者さんの病状の相談をした際に「◯歳の患者さん・・・」と説明したところ、「◯歳△ヶ月かまで言わないと質問の意味がない」と叱られたことがあります。その通りでお子さんの1年は◯歳0ヶ月と、◯歳11ヶ月では全く身長の捉え方が変わってくるからです。もちろんこれは身長の診療の世界の話なので、普段の生活では意識されることはほとんどないと思います。しかしながらいわゆる「早生まれ」(あまり好きな言葉ではないです)の方ではそれの意味することはよく理解できるかもしれません。

GHDの診断を受けて成長ホルモン治療を受けている方の大半が「小児慢性特定疾患医療費助成制度(以下小慢と略記)」における認定を受けています。小慢における治療終了基準は男子156.4cm、女子145.4cmです。これは成人の-2.5SDに当たる数字です。小慢の適応は治療開始基準も-2.5SD以下の低身長の方がその他の診断基準を満たして初めて対象になるからです。この-2SDと−2.5SDの違いからくる問題点は改めて書く予定です。小慢は毎年更新ですので、GHDの方は上記の数値を超えると翌年度の認定は容赦なく切られます。もちろんこの数字でピッタリ身長が止まるケースは少なく、それ以降は残った伸びしろで男子160cmないし女子150cmを超えられるように調節することも大事になってきます。これについても思春期に絡む問題として改めて記載します。

男子160cmないし女子150cm以上を希望される場合は医療的な低身長の範疇を超えるため、健康保険制度を利用した治療をすることは医療経済の観点などから好ましくないと考えます。そのためこのような場合での治療継続を希望される場合は基本的に自費診療で成長ホルモンなり男子ではプリモボラン®を使っていくことになります。その他には思春期早発症に使う性腺抑制ホルモンも使うことがあります。成長ホルモン製剤は自費診療になると非常に高額な治療になるためお勧めはしていません。特にそれまでの成長ホルモンの効果がそこまで強くない方に自費診療を行う場合はより高用量の治療が必要になってきます。もちろんそれに比例して費用も高額になります。あとは個々のご家庭での判断に委ねられることになります。全国的には数少ないながらも自費での成長ホルモン治療を行っている方はみえますが、当院では1人もいません。もし具体的に希望される方がいる場合はジェネリック製剤を提案する準備はできていますが、それでもそれなりの費用になります。

-2SDという数字と成長曲線は非常に信頼度の高い指標となります。何年にも渡って全国のお子さんの身長の統計から算出されたものです。加えて定期的に世代間のギャップを考慮して改訂が加えられています。正直なところしっかりとした成長曲線をみるだけである程度病的かそうでないかはだいたいわかるといっても過言ではありません。それくらい診療における重要なツールとなっています。そのうえで-2SDが病的低身長と定義されているわけですので、それが最も基礎的な低身長の診療の要素になるわけです。

東京にある国立成育医療センターは日本で一番大きい小児病院ですが、ここの内分泌科が出した低身長の原因疾患の統計というものがあります。恐らく日本で一番低身長の受診者数が多い病院のデータですので信頼性は高いと考えていいでしょう。52.8%が特発性低身長=原因不明の低身長、10.7%が家族性低身長、そしてその次にGHDが14.5%となります。特発性低身長の方の多くが身長基準を満たしながらも、負荷試験などの基準を満たさず治療に至らなかったケースと考えられます。言えることは身長が低くともGHDであったり、その他のもっと頻度の少ない原因病名が判明することは全体の3割にも全然満たないということです。このレベルの高度診療が可能な病院ですと希少疾患の方の割合が増えていると予想されるので、当院のような診療所や一般病院では2割くらいに減少します。当院でプリモボラン®の自費治療を始めた理由は、少しでも医療的根拠がある治療で男子の160cmに近づけることができないかという思いからになります。女子の方は声が低くなる副作用のため残念ながら行っていません。

低身長の相談をしたい、と受診される方の多くは-2SD以下の方になりますが、なかには-2SD以上で相談される場合も少なくありません。この場合、短期間で著しい成長率悪化がある場合には成長ホルモンの検査ではなく、まず甲状腺機能検査と脳MRIなどの画像検査を優先します。脳MRIの理由は言うまでもなく脳腫瘍の有無を確認する必要があるからです。また、まれに後天性の甲状腺機能低下症で急に伸びが悪くなることがあるためこちらも必須です。-2SD以上ある場合は成長ホルモンの精密検査、つまり負荷試験を提案することはしていません。-2SDより上の場合に健康保険を使っての成長ホルモン治療を行うことはできませんので、負荷試験もする意味はこの時点では全くありません。仮に脳腫瘍があったとしても、まずはその治療が優先になりますし、それが原因でGHDと判明しても治療開始基準はやはり-2SD以下の身長になってからになりますので負荷試験もその時点で検討することになります。安易に背が低いからといって成長ホルモンの治療を目指して負荷試験を行った経験がある患者さんを診療することをこれまでに幾度となく経験してきましたが、内分泌を專門とする医師からみればまったくもって非効率的な負担を患者さんとそのご家族に強いているだけにしか映りません。

とはいえ、小児科医が年々少なくなっている状況です。今の時点で小児科医の平均年齢は50歳を超えるそうです。院長も既に小児科医になって20年を超えてベテラン扱いになってくる年齢に達しましたが、それでもまだ若造の範疇に入りますから将来的な小児医療を考えると内分泌に限らずすべての分野において憂慮すべき状況になっています。そのなかで内分泌の病気で一番診ることの多い低身長の訴えに対してはどの小児科医もある程度は対応する技量は求められます。早い人で医師になって6年目で受験可能な日本小児科学会認定専門医の試験においては、幅広い分野での知識および診療経験が問われます。そのなかにはGHDの診療診断経験(負荷試験も含む)や治療経験も含まれます。ただし研修医を経ての6年目の医師に豊富な治療経験を求めるのはどの分野においても酷というものです。基本的にどんな分野にも詳しく精通しているオールラウンダーはまずいません。精通しているに越したことはないのですが、小児科医により求められるのはこれは専門家に相談した方がいいと判断する能力です。言い換えれば自分の技量を超えていると判断したら、手早く精通している人に相談なり依頼する能力です。幅広い分野を診療する技量は必要ですが、全て自分で抱え込まずに他の知恵を頼るのは何も恥ずかしいことではないです。今でも自分は内分泌疾患を含め困ったり悩んだりしたら相談をしています。ひとりよがりな診療で患者さんに不利益を与えないことが何よりも大事です。よって初期の対応は幅広くやるべきであり、GHDや低身長に関しても経験の少ない医師はどんどん関わっていくことは必要と考えます。そのなかで難しい問題にぶち当たった場合にいかに次の手を打てるかが重要と考えます。

1回目からだいぶ長くなってしまいました。患者さんに-2SDの概念といったものを最初から求める必要性は全くありません。基本的に最初の受診のきっかけは「背が周りの子より低い」「健診でかかるよう言われた」といったざっくりとしたものが大半です。そこから詳しく調べるか、様子をみていいかを判断するのが小児科医の仕事です。次回は診断において重要な役割を果たす負荷試験について思うことを書いていきます。

このブログの人気の投稿

免疫力低下というもっともらしいキーワード

グーグルマップの口コミへの対策は?

成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断・診療について思うこと(最終回)